「ねぇ…パパ。」
「ん?」
「どうしてボクにはママがいないの?」
それはいつものように幼稚園の帰り道、息子の優希を迎えに行った時の事だ。
今日は仕事が少し詰まり、迎えに行くのがかなり遅れた。
それため優希は少し機嫌を損ねていたようだ。

「…………。」
「ボクだけ毎日パパが幼稚園迎えに来るのイヤだよ…」

「ママはな、遠い所へ行ってしまったんだよ。」
「いつ帰ってくるの?」
その問いかけは何回目だろう。

「……ずっとだよ。」
「…それに、パパのご飯おいしくないよ!ママご飯食べたいし、お出かけだってしたい!一緒にお風呂入ったりおねむだってしたいよ!!」
その日、優希から私に話し掛けてくる事は一切なかった。


それから数日後、私は息子の機嫌を戻すためにもデパートへと連れて行った。
「少し買い物してくるから、ここで遊んでなさい。」
そこには雑多と並ぶ玩具の山があった。
おもちゃ売り場だ。
機械少女 挿絵 #01 買い物を終えた私が戻ると、ある一角に大勢の人だかりが出来ているのに気が付いた。

その中に、目の前に展示されている物に心を奪われる息子の姿を発見した。

「…優希?」

問いかけにも気づかないくらい、目の前のそれは息子の心を捉えていたようだ。
機械少女 挿絵 #02

それは「機械少女アンナ」だった。

本来宇宙開発を目的に製作された人間型ロボット。
それが現代、容姿を多種多様に一変し、一般用にも普及されるようになった。
当初は医療、介護などの分野で活躍していたが、普及するにつれて料理、清掃、会話、さらには擬似的な人間の心を兼ね備えた家庭用までが開発された。
中でも20歳前後の容姿に、かつてメイドと呼ばれる格好を似せたものは一際人気を集め、彼女たちは機械少女と称されるようになった。
生活補助と癒しを与えるその少女が、先月モニター販売を開始したのである。

息子はその機械少女に後ろ髪を引かれているようであったが、その場をあとにした。


ほどなくして、息子宛てにかなり大きな宅配便が届く。
中身が機械少女だった事に驚きを隠せないようだ。
自分のために無理をして買い与えてくれたのだと、息子は歓喜し心躍る気持ちでその梱包を解いていった。

「…優希さん。」
私はあえて率先した手助けをせず、息子の思うままに作業させた。
園児が読解するには難しい解説書に四苦八苦している中、機械少女アンナはその活動を開始した。
「私はあなたのためにこの身を捧げます。優希さんの望むように私をお使い下さい。」