機械少女 挿絵 #12 それから数日が過ぎたが、一向にアンナの修復用のパーツは届かなかった。

代わりに届いたのは一通の封書。

差出人はメーカーからアンナに宛てたものだった。
封書を渡すと、優希はその内容をアンナが読むまで待った。
「…………。」
無言で一通り読み終えたアンナは、まるで動力を失ったかのような腕で、手紙をテーブルの上に置く。
その表情はまるで…涙を流せない人形。

「…優希さん。」


……長い沈黙。

そして意を決したように口を開く。
「…優希さん、お別れです。」


機械少女のモニター販売の結果は不評だった。
本来生活補助を目的に売りだされたものであったが、その特有の性質、外観から犯罪補助、暴行、猥褻行為などに使用された。
もちろん、機械少女は物事の善し悪しの判別は出来るようにプログラミングされていた。
しかし中途半端な心を持ってしまった人形は、それよりも強い実行権を持ったプログラムを作りあげてしまったのである。

各地で問題として騒がれ始め、ついに国はメーカーに対し該当となる商品の販売中止、回収をうながしたのであった…


「そ…それで、ママは連れて行かれた後どうなるの?」
「…わかりません。私たちは所詮、実験段階の機械少女です。おそらくメモリーは完全に書き換えられ、体も作り変えられる可能性が高いです……。」
「そ、そんなの絶対にイヤだ!何でママがそんな目に合わなきゃならないのさ!」

「それに優希さん……大変申し上げにくいのですが………実は、私はあなたのお父様に買い求められたのではありません。」
「えっ…………どういう……事?」
「私を作ったのは…私達を開発しこの世に送りだしたのは、あなたのお父様なんです…」
「……っ!?」
「お父様の奥様は、まだお若い頃事故でなくなったと伝えられております。そして科学者であったお父様は、私をその奥様に似せて作られたのです。」
「だったら!パパが作ったなら会社がどうとか関係ないじゃないか!なんでずっと一緒に居れないの!?」
「そ……それは……申し上げられません……」
「なんでさっ!」
「……それが……優希さんの……理由だからです。」
「結局アンナはボクと一緒に居たくないんでしょ!?そういうことでしょ!?」
「違います!私も出来る事ならずっと優希さんの傍に…居たい。」
「アンナはやっぱりただのロボットだよ!ボクの命令が聞けないなんて…出来そこないじゃないか!もういいよ!!」
「あッ!!待って下さい!」
優希はやり場のない怒りに耐えかねて、家を飛び出してしまった。
機械少女 挿絵 #13 「優希さん、お願いです!待って下さい!」

「どうして追いかけてくるのさ!さっさと帰っちゃえばいいじゃないか!」
そこは家からかなり離れた国道近くだった。
十数分は走り込んだであろう。しかし以前川に飛び込んだ際の故障が響いて、アンナはなかなか追いつく事が出来なかった。
優希は後ろを振り返り、その様子を見ながら走り続ける。
ときおり辛そうに表情をしかめるアンナに足を止める事もあったが、彼女が近づこうとするとまた走り去ってしまう。


逃げる事が無意味なのは知っていた。
そんな事よりも残された時間が僅かなら、その時間を精一杯ママと過ごした方が有意義な事に気付いていた。

そんな考えがいっぱいになり、国道の反対側に優希が辿りついた時、ついにアンナは脚から電流を流し倒れてしまった。
「……ママッ!」
それを見た優希は、ついに居ても立ってもいられなくなり、とっさにアンナの元に駆け戻ってしまった。

「……!!優希さんッ、来てはダメ!!」
優希が先ほど通った歩道用の信号は、もう赤く灯り始めていた…


優希の前を紙一重で猛スピードの車が通過する。
おそらく止まる事が不可能と察したドライバーが加速してかわしたのであろう。
優希はその事で初めて、自分が道路に飛び出してしまった事に気付く。

が、刹那の瞬間2台目の大型貨物が襲う。
タイヤがアスファルトにしがみつこうとする甲高い音と、機械少女の叫び声だけが聞こえ時が止まった…