………
……………
…………………生きてる…
機械少女 挿絵 #14 目を開けた優希の眼前に広がる光景は、黒く刻まれたタイヤの跡と、辺りに散乱する機械の破片だった。

優希が最後に見たのは自分をかばって飛び込んだママの姿だった。
「ぅ……うぅ……うわああぁぁぁぁ!!」


状況を理解した優希は、叫び声を上げ立ち上がろうとする。
…が、体が思うように動かない。
無数に散らばる破片の中で一際大きい破片……機械少女の首だった。
優希は這いずるように、その首に近寄った。



「……マ…ママ…」
優希が首に話かけると、アンナは微笑みを浮かべた。
「ママ……ごめんなさい……ボク………ボクどうすれば…」
機械少女 挿絵 #15

「優希さん、本当に最後のお別れです。動力源が切れたため、私も長くはもたないでしょう……」

「…しゅ、修理すれば…直る…よね?」
「いけません。…私たちはチップが粉々にでもならない限り、幾らでも修復する事は可能でしょう。でも、それは本当の命ではありません。」
「ほんとうのいのち……?」
「命は尊いものです。でもそれはもろくて壊れやすい……修理をすれば直るというものではありません。」


「私はこれで全ての役目を終えたので全てをお話します。
私はあなたのお父様に、亡くなった奥様に似せて作られました。
奥様が亡くなられるその日、お父様はもう一人の大事を人を失ってしまったのです。
その大事な人も私と同様…その身をよく似せた機械が作られたのです。
いえ、正確には想像して作られた…でしょうか。


…それが優希さん、あなたです。
奥様は身篭ってらっしゃいました。
一ヶ月後には元気な男の子を生まれるはずだったのです。
もう…12年も昔の話です。」

「…ボクは……じゃあボクは本当に機械だったの…?」

「優希さん、あなたは特別な存在でした。
創造したはずの心は、お父様の予想を超え大きく成長しました。
私があなたの前に現れたのは…あなたのその心の成長を助けるためなんです。
でもその成長も完成しました。今、優希さん……あなたは涙を流しています。
だから私の役目は終わったのです。今まで騙していて本当にごめんなさい…」


「どうして…役目とかそんなの関係ないじゃないか……ずっと一緒にいようよ…」

「私たちは優希さんのように、泣く事は出来ません。
機械が涙を流すという事は…あなただけに許された特別な行為なんです。

でもそれ……は、決して自分のために………ながす…なみだじゃありませ…ん。
ひとヲおもって……ひとの……こころヲかんじ…て、ながすキモ……チヲ……ワス………レ…………ナイ……デ………」

「ママ…いやだよ…ボクもうワガママなんて言わない。良い子にするから…だから死なないで…ママ…」

しかし、機械少女がその鋼鉄の瞳を開くことは決してなかった。

「マ…ママーーーー!!!」
機械少女 挿絵 #16

少年……いや、「機械少年」は夢を見ていた。
長い長い夢だった。

失ってしまった自らの子供を創造した父親は、その特別な少年を本当の子供のように可愛がって愛情を注いだ。
少年はいつしかその愛情のもと、自らが機械である事を忘れ、否定した。
夢の始まりだった…

少年の完成された記憶、感情、経験は固定記憶として保存され、数年後新たな機械少年、少女の礎となる。


そして新しく送り出された分身は泣くための機能を備え付けてはいたが……決して自らのために涙を流す事はなかった。

機械少女 終わり