「…フローラ。」
「……?ママ?ママなの!?」

そこにはもう何年前だろう。失ってしまったはずの母親の姿があった。

「ママ!いきて…生きてたんだね!」
が、母親は悲しそうな顔をすると、横に首に振った。

「フローラ…森を探すのをやめてしまったの?」
「ぅ…」

今にも泣き出しそうな顔をして、黙ってしまう。

「人間を恨んではだめよ。あなたが信じる心を失ってしまったら…人間も信じる事を止めてしまう。」
「でも…にんげんなんてきらいだよ。ほかのことを…じぶんたちのことしか考えないにんげんなんて。」
その言葉を聞いて、母親は悲しそうな顔を強めた。

「……そうね、確かに彼らは身勝手だわ。でもね、人間だからこそ出来る事もあるのよ。」
「にんげんだからできること…?」

「それはフローラにもいずれ分かるわ。ただ、恨みや憎しみは決して良い結果は生まないの。」
「……」


「ちょっとあんた!そんなとこに寝てると変なモンに喰われるわよ!」

不意に耳元に響く大声。
そんな声でフローラは自分が気を失った事に気が付いた。
妖精の森 挿絵 #03 「まぁーったくぅ。そんな所でメソメソ泣かれてたんじゃ、寝れないじゃないのよぉ。」

「あ、あなたは…?」

「私はシャイニー、都会に住みついた妖精よ。あんたは?」

「…フローラ。たぶん、森をさがしているの。」

「はぁ?たぶんってなによ?」

「自分でもどうしていいのか、わかんないから…」
「まあ細かい事はどうでもいいわ。あんたお腹減ってんでしょ?体も汚れてるし…付いて来なよ。」
「う、うん。」
フローラは案内されるままに、シャイニーに付いて行った。


辿り着いたのは、一件の人間の家。
シャイニーはそこに忍び込むと、体全体を使って水道の蛇口を回した。

「ん…はぁはぁ…結構固かったわね。ほれ、これで体洗いなさい。」
「すごい…水が出るんだ。ありがとう、シャイニー。」
フローラは流水で体と髪を洗うと、掛かっていたナプキンで水を拭いた。
シャイニーはそれを見届けると、そこに置いてある蜂蜜のボトルをひっくり返す。

「これ、蜂蜜っていうんだけど、花の蜜が凝縮されたものだから美味しいわよ。」
そういってシャイニーはその琥珀色の液体を手ですくい、嘗めはじめる。

「でも…こんなことして、にんげんにみつかったら…」
「ん、大丈夫よ、ここの家は子供はいないから。人間の大人に私達の姿は見えないわよ。」

「それは知ってるけど…でもなんでにんげんは、私たちのすがたが見えないのかな?」
「…あんた妖精のくせにそんな事も知らないの?結構世間知らずね、笑われるわよ?」
妖精の森 挿絵 #04 「人間は大人になるにつれて、子供の頃信じていたものに疑問を持つようになるのよ。

周りの人間は誰一人としてそんなものを信じていない。だから、そんなものはいないんじゃないかってね。

その小さな疑いが多くの人間から、色々なものを見えなくしてしまったの。妖精もその一つよ。
…っていうか、あんた聞いてる?(汗)」

「はむ?ふぃいてるふぃいてる。っていうかコレほんとおいしーね♪」
フローラは口の周りについた蜂蜜を舐めとると、やっと満足したかのように落ち着いた。

「そうなんだ…。思うんだけど、もしにんげんたちが私たちのすがたを見えるようになれば、もっと自然を愛してくれるようになるのかな?私たちのすみかをこわさないでいてくれるのかな?」
「さあね。ま、私としては見えなければそれはそれで、余計に追いかけ回されたりしない分、便利でいーんだけどね。」
「そんな…」
その時、突然ドアが開き一人の人間が入って来た。


「ねぇ、あの人ずっとこっちのほう見てるよ。」
「大方、知らぬ間にテーブルが蜂蜜まみれで、悶絶してるんじゃないの?いー気味だけどね。さ、いくよ!」

フローラはシャイニーに引かれるようにして、その家から飛んで行った。


人間は無言で散らかったテーブルの上を片付けていた。そして…
「……フローラ…」
ポツリと呟く。