…私の生まれた森。
静かで、優しく、そして咲き乱れる花々がとても美しい森だった。

「ねぇ、ママ。どうしてフローラはフローラっていうの?」
「それはね、フローラ…あなたは花の祝福を受ける事が出来たの。この森の多くの花々に愛されて、あなたは妖精として生を受け、その羽を広げる事が出来たのよ。」
まだ幼いフローラは、指を咥えて考えるように首を傾げる。

「んー、よくわかんないけど、フローラはおはなさんとおともだちってことだよね。」
「ふふ、そうね。」


それから何回の昼と夜が繰り返されただろうか。
風が酷く、空はどんよりと荒れていた日の事だった。

「ママっ!あぶないよ!」
突然の落雷による山火事。火は風の勢いに乗り、またたく間に燃え広がり森を焼き尽くしていた。

「フローラ、あなたは逃げなさい!ママはここに残るから…」
「いやだよ、そんなのっ!ママもいっしょにいこうよ!」
母親は少し困ったかのような顔をすると、フローラの髪をそっと撫でる。

「…駄目よ、この奥にまだ多くのママの友達の動物達がいるの。ママは彼らを助けに行かなければならないの。それが出来るのはママだけ…それが妖精の使命なの。分かって頂戴。」
「うぅ…ママ…。」

「フローラ、あなたもそろそろ一人立ちをしなければいけない頃よ。自分の森を見つけなさい……そして、その森を守れるように強くなりなさい。」

「わかった…フローラつよくなる。やくそくするよ、ママ。」
その言葉を聞いた母親は、最愛の娘に笑みを浮かべた。
「私はあなたに出会えたから、森を守る為に強くなる事が出来たの。あなたもママになればきっと分かるわ。」

それはまるで今までの感謝を伝えるかのような言葉。
…そして、燃えさかる炎へとその姿をかき消していく。
妖精の森 挿絵 #07

「フローラ…あなたに出会えて本当に良かったわ。
…ありがとう。」

森を守護する妖精は炎の中へと消えていった。


「ここは…ママの森だ…。」
「…やっぱり、君がフローラなんだね。お母さんに良く似ているよ。」
「おじさん…おじさんはどうしてママのことや、私のことを知っているの?どうして…私たちのすがたが見えるの?」

「私はね、君の事をずっと待っていたんだよ。昔、子供の頃この森でよく遊んでいたんだ。わんぱくでね、よく親を困らせていたよ。ところがある日、古井戸に足を滑らして落ちてしまってね…足をくじいて、出られなくなってしまったんだ。」


お腹も減ったし、喉も渇くし、暗くなって来てそれでも誰も助けに来ない。
…心細い思いをしたんだよ。
そんな時、君のお母さんが私の前に現れてくれたんだ。

寒くて冷え切った私の体を暖めてくれて、ずっとそばに居てくれたんだ。
妖精の森 挿絵 #08

あの時くれた木の実程、おいしいと思った食べ物はなかったよ。

助けが来ると君のお母さんは、古井戸を出て帰ろうとするんだ。
「まって!また……また会える?」

「…あなたが今の気持ちを忘れないで、私達の事を信じ続けていてくれる限り、きっといつかまた会えるわ。もしその時、私の子供…フローラが困っていたら今度はあなたが助けてあげて。フローラにはまだ人々の支えが必要だと思うから。」

そう言って、姿を消したんだ。
君のお母さんが、私に妖精を信じる心と、この森を守ろうって思う心を与えてくれたんだよ。